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no title (FROM 'R2')

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シュナイゼルの執務室に足を踏み入れたスザクは、多忙そうな第二皇子に向かって敬礼をした。
ドアを開けてくれたのは部下だったが、ティーセットを運んできてテーブルに並べると、さっさと下がってしまった。どうやら人払いをしたのだと分かり、スザクは心持ち身構えた。なんとなくではあるが、この皇子が苦手だという意識が、確かにある。
「すまないね。こんな時間しか空いていなくて」
「いえ」
時刻は十時過ぎ、ラウンズに任じられてまだ数ヶ月の身であれば充分、勤務時間内である。軍人なのだから、たとえ真夜中に呼び出されようとさして苦にはならない。
シュナイゼルが向かい合わせになった応接用のソファに座る様に視線で命じたが、勿論すぐには座らない。シュナイゼルがデスクからソファに移動し、腰を下ろすのを待って、ようやくスザクも座る。
「ラウンズの軍服も、だいぶ馴染んだようだね」
返答に困り、スザクは曖昧に頷いた。
「実はずっと君に会う機会を待っていたのだけど、なかなか捕まらなくてね。結局、こうして来て貰うことになってしまった」
「…申し訳ありません」
シュナイゼルはちょっと笑って、「冗談だよ」と言った。
「本当にこちらから尋ねるつもりだったんだよ。個人的に君に用あってね、他の者には任せたくなかったものだから」
「…個人的、ですか?自分に」
スザクは不思議そうにシュナイゼルを見やった。公式の場では、叙任式でもその後の祝賀会でも顔を合わせている。シュナイゼルとは二言三言、それも決まり文句をやりとりしただけだ。それ以前についても、スザクと個人的なつながりはない。特派、という一点をのぞけば。
スザクはそう判断した。ラウンズに任じられたことで、自分の特派での立場は、特に微妙になってしまったこともある。だからシュナイゼルに呼び出されたのも、そのことだろうと思っていたのだが。
「これを渡したくてね」
「羽ペン…?」
「そう、ユフィが愛用していたものだよ」
「…!」
スザクは目を見開いた。
「あまり大きなものでは、持ち歩くのに不便だろうから」
形見分け、というのだったかな、君の国では。シュナイゼルは静かに言う。
「私はあの国で妹を二人、弟を二人、失った」
弟を二人──。もちろん、クロヴィスとルルーシュのことだろう。ルルーシュは、七年前に死んだことになっていた。だから当然だ。当然だが──
シュナイゼルは穏やかに笑っている。
「おおよそ予想はついていたよ。君がゼロを捕らえて本国へ連行した事、突然ラウンズに任命されたこと、ほぼ同時にナナリーが保護された事。どれも極秘ではあるけれど、私はその情報を知り得る立場にいる。ゼロの素性が勅命で公表されなかったことも、私の予想を裏付けた」
「殿下──」
そういうのが精一杯だった。咄嗟に言葉が出てこない。
「ああ、そのことで何か言いたいわけではないよ。ゼロを捕らえた事は本当に素晴らしい功績だと思っているし。ただ」
「…」
シュナイゼルは微笑んだ。とても哀しそうに。
「とても、残念だ」
「……自分もです」
「だからこそ、君のこれからの働きに期待している。ユフィもそれを願うだろう。受け取って貰えるかな」
スザクは頷き、小さな羽ペンを受け取った。──ユフィ。
シュナイゼルがすいっと手を振った。退出の合図だ。スザクはすっと立ち上がって拝礼をした。
「スザク」退室寸前、振り向いたスザクに、シュナイゼルは言う。
「君はユフィの騎士だ。今でもそうだと、私は思っているよ」
「…ありがとうございます」

囚われているという意味では、彼とおなじようなものなのかな。
スザクは微かに笑って、足音を吸い込む廊下を歩いていった。

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本格的な殿下の出番の前に。
殿下はゼロの正体に気付いている、とおもいたい。
by generalx | 2008-06-05 22:15 | ギアス掌編 | Comments(0)