2007年 05月 15日
図書館シリーズより
手塚さんと柴崎さんて付き合ってるんですよね。
食堂で同席につくなり、出し抜けにそう言った図書隊員の顔を、郁はかろうじて覚えていた。そもそも同期以外の業務部メンバーとは面識があまりないが、こと彼女に関しては去年の新人だそうである。
「…違うと思うよ?」
郁は箸を割ってから、素直に答えた。手塚も柴崎も、互いをトモダチだと言うだろう。少なくとも嫌いではない、はずだ。たぶん。
「えーでも仲良さそうじゃないですかぁ。今日も一緒にお昼出てったし」
へえ、と郁は思った。彼女が仕事中に目撃したのなら、手塚が迎えに行ったことになる。その手の噂を嫌う柴崎にしては慎重さにかける気もする。
「でもそれだけじゃ付き合ってるとは限らないんじゃない?」
「で、お願いがあるんですけど」
郁は眉を寄せた。微妙に人の話を聞かない子のようだ。このパターンは──その後の台詞は容易に想像できる。
「笠原さん、聞いてみてもらえませんか。手塚さんか柴崎さんに」
「直接聞いた方がいいと思う」
聞けたらお願いしてませんよぅ、と彼女は口を尖らせた。可愛い子ではある。小柄で愛嬌もあって。
「手塚が好きなら正面から言った方がいいよ。二人ともあたし経由っての嫌うから。…ごちそうさま」
何か言い足そうな彼女を残して、郁はさっさと立ち上がった。
「ご苦労様」
出口付近に、壁に凭れて柴崎が立っていた。郁を認めると、ちょっと笑った。
「…聞いてた?」
「聞かなくたって分かるわよ。アンタの顔見てれば」
あたしが行くと話がややこしくなるから、話が終わるまで待ってたのよ。柴崎はそう言って長い髪を払った。
「なぜか周期的に出るのよねー。今回はあの子が騒ぎそうだったんで、注意はしてたんだけど」
「…大変だね」
慣れてるからね、と柴崎は鼻で笑う。
「確かにアレと一緒にいることも多いしね、最近。誤解されても文句は言えないわ」
郁は思わず笑った。手塚がアレよばわりである。やはり付き合うには遠いようだ。
「ああ、お腹空いた。ご飯食べてくる。お風呂は一緒にいこ」
うん、と郁は答えた。柴崎が食堂の奥に消えた時、手塚がやってくるのが見えた。
うわタイミングの悪い男!
郁は急いで食堂をあとにした。何もなければそれでいい。だが巻き込まれるのはまっぴらだ。赦せ手塚。
やはりと言うべきなのか、食事から戻ってきた柴崎は大層不機嫌だった。郁は何も聞かず、入浴後に柴崎とアイスを食べた。ざっくざっくとスプーンで柴崎に突かれていたそのカップアイス──手塚のおごりだったそうである。
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柴崎と手塚の組合せも好きです。
柴崎がぽんぽん言うのが小気味よい。
by generalx
| 2007-05-15 00:37
| 言の葉
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