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フロー・ヴァイナハテン

雪が降ってきた。

吐く息が真っ白だった。今日は冷えると思ったら、やはり雪か。
世間はクリスマス一色だが、貧乏とまではいかなくても資金繰りにそれなりに頭を悩ませる若き研究者にとっては、さほど心動かされることでもない。まして今は、立派な大人だ。(少なくとも主観においては。)
…と言いたいところだが、実際にはアルフォンスは、すでに暗くなりかけた通りを急いでいた。帰る前に連絡して待ち合わせ場所を決めた時、『待っている』と言った彼はどんな顔だったのだろう。──やはり今日は、特別な日だ。彼と過ごせる事が、これほど嬉しいのだから。
「顔が笑ってるぞ」
ふいに声がかけられて、アルフォンスはぎょっとして立ち止まった。見れば、当の同居人が鼻を赤くして通りに立っていた。
「エドワードさん…?」
「おかえり」
「あ、はい。…って、ずっとここで待ってたんですか? 先にいってたんじゃ…」
「あー、うん。行くには行ったんだけど」
待ち合わせたカフェは、1ブロック先を左に折れた、その先にある。そこはかつてアルフォンスがエドワードを誘い出し、すったもんだの末に美味なクーヘンを頂いた店である。以降、それぞれが時折訪れてはいたが、二人揃っての来店は久しぶりとなる。
「中は見事に二人連ればっかだし。一人でいるのもなんか、さ」
「こんなところで…寒かったでしょう」
「別に」
エドワードは、義手が冷えて関節が痛むと言っていたことがある。無理はするなとという言葉をアルフォンスは呑み込んだ。
「…急ぎましょう。クーヘンがなくなっちゃいます」
「え!」
「時期が時期ですから。あんまり遅くなると売り切れますよ?」
エドワードは目に見えてがっかりと言った顔をしたので、アルフォンスは笑った。彼は本当に甘いものがすきなのだ。彼を促し、歩き出したとき、ふわりと雪が彼の金髪におりた。
「エドワードさん、手」
「手?」
「左手、出してくれますか」
差し出された手をぎゅっと握った。エドワードは驚いた顔をしたが、振り払わなかった。にっこり笑うと、彼も微笑み返してくれた。冷たい手が、じんわりと暖まっていく。

カフェの入口が見える。左手に小さなツリー。扉にはメリー・クリスマスの文字。

聖なる夜に、祝福を。

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来年も、あなたのとなりがいい。

メリークリスマス&ハッピーニューイヤー。
by generalx | 2006-12-24 18:13 | 言の葉 | Comments(0)